代表メッセージ

 私のビジョンは、高安山の里地・里山のため池を利用する新しい水循環システムを作り、伝統的な“ドビ流し”を持続していくことで、自然遺産であるニッポンバラタナゴを未来の子どもたちに継承することです。

 高安地域の地場産業である花卉栽培と稲作はもちろんのこと、それに加えて近郊農業の利点を生かした河内の特産物となる有機野菜づくりを展開し、さらに地場産業である河内ブナやモロコなどの有用養魚を活性化していけば、ため池の水を利用する必然性が生まれると考えています。私は、このように地場産業を活性化することではじめて、ため池の伝統的な農業用水管理技術である“ドビ流し”を持続的に実行することができると思っています。 “ドビ流し”とは高安地域での呼び名であり、全国的には“池干し”あるいは“かい掘り”と呼ばれています。この“ドビ流し”には4つの効果があります。1つ目は、池の富栄養化の原因になる底にたまった有機物(ヘドロ)を池の底樋から洗い流して池の掃除をすることです。次に、そのヘドロはもともと有機物が分解されてできた栄養過多の汚泥ですから、田畑に流し込むと、もってこいの肥料になります。第3の効果は、ため池で繁殖した生物の多くは、食材として利用可能であること。かつて地元ではフナの昆布巻き、ヨシノボリやモロコと大豆を炊いたジャコ豆、ドブガイやスジエビの佃煮が作られてきました。これらは今では地元の特産物として売り出す価値のある地産物になると思うのですが、だれも作れない伝統的な食材になってきました。この“ドビ流し”をくり返すことによって、ニッポンバラタナゴは保護されてきたわけです。

  2005年の3月に、はじめて“ドビ流し”を再現した時、池を干す時間がなかったので、池の底を干す代わりに、5年前に池の改修工事で周りに干し上げたヘドロ(池の底にたまっていた有機物を含む汚泥を天日干しもの)を加えたことがあります。驚いたことにそれまで5年間ほとんど繁殖しなかったドブガイが1000個体以上繁殖したのです。 一辺が12mほどの正方形の小さなため池です。調べてみると、酸化した腐葉土を含む山土が入ると、まず、はじめにドブガイの餌となる珪藻類が大量に発生してくるのです。たぶん珪酸と腐植物質の有機酸鉄を多く含む山からの水と腐葉土を含む山土がため池に入ることによって珪藻が大量に発生し、ドブガイの稚貝も大量に発生したわけです。その年はアオコの異常発生は見られませんでした。そして、その翌年にはニッポンバラタナゴが大量に増えたのでした。  この高安地域で持続可能な社会システムを構築することができれば、日本国土の約40%を占めるといわれる里地・里山で、人と自然が共生するあり方の一つのモデルになるだろうと考えています。年中行事として実施される高安地域の“ドビ流し”によって、地元地域の自然遺産であるニッポンバラタナゴを100年後の子どもたちに継承することが私の現在の大きな使命だと考えています。