第11期 プロ・ナトゥーラ・ファンド助成成果報告書(2002)

ニッポンバラタナゴの保護

ニッポンバラタナゴ八尾研究会

加納義彦、葭仲俊幸、竹本芳隆、岩崎陽子、西野民夫

Conservation of Japanese rose bitterling Rhodeus ocellatus kurumeus

Yao study group of Japanese rose bitterling

Yoshihiko Kanoh, Toshiyuki Yoshinaka, Yoshitaka Takemoto, Youko Iwasaki, Tamio Nishino


《活動の目的》

 コイ科魚類のニッポンバラタナゴRhodeus ocellatus kurumeus は、生きたドブガイの鰓腔内に産卵するため、ドブガイが生息できない河川や溜池では繁殖できない。また、ニッポンバラタナゴを保護するための特異な問題は、タイリクバラタナゴと容易に交雑することである。さらに、近年では、水質汚濁や外来魚の侵入によって、絶滅が危惧されている。今回の活動は、ニッポンバラタナゴを保護するために、八尾市溜池群における2亜種間の交雑状況と保護池におけるニッポンバラタナゴとドブガイの繁殖状況を調べるとともに、ニッポンバラタナゴとドブガイが生息できる環境を保全し、地域の子どもたちにニッポンバラタナゴの生態を広く知ってもらうことを目的とした。

《活動の方法》

 2000年10月から2001年2月まで、ニッポンバラタナゴが生息していると考えられる八尾市の6つの溜池からバラタナゴを採集し、タイリクバラタナゴとの交雑状況を、アイソザイム分析によって調査した。対照として、かつて交雑が確認された淀川水系の防賀川から採集したバラタナゴの形質と比較検討した。 
 ニッポンバラタナゴ八尾研究会では、1999年5月に保護池を造成し、ニッポンバラタナゴ雄41尾、雌60尾、ヨシノボリ100尾、スジエビ20尾を放流した。さらに、マーカーによって個体識別したドブガイ45個体を同時に移植した。今回の活動では、2000年10月、2001年2月、3月、6月(写真2)、 9月に、保護池におけるニッポンバラタナゴの繁殖状況を調べ、保護池から5つの溜池へ合計500尾のニッポンバラタナゴを移殖した。また、地域の小中学校へ水槽飼育観察用にニッポンバラタナゴ計300尾を配布した。また、保護池におけるドブガイの繁殖期と成長期を明らかにするために、2000年10月から定期的にヨシノボリを採集し、ドブガイの幼生の寄生数を数え、さらに、ドブガイを採集して殼長と殼高を測定した。そして、繁殖期の2001年4月から5月に、ニッポンバラタナゴの繁殖行動を水中ビデオカメラで撮影し、ビデオ教材を作成した。

《活動の成果》

 八尾市の保護池を含む5つの池における、アイソザイム分析の結果は、すべての個体でニッポンバラタナゴの表現型を示した(表1写真1)。以前にタイリクバラタナゴとの交雑が確認された上野池では、バラタナゴがまったく採集できなかった。 NO4'池では3個体しか採集できず、それらの個体は雑種個体の表現型を示した。したがって、八尾市溜池群では、捕食魚の侵入や水質汚濁によって雑種個体群は減少する傾向を示した。一方、対照実験として分析した防賀川の個体群では、LDHでタイリクバラタナゴの遺伝子頻度が0.810となり、 6PGDでは0.905で、15年前の結果(LDH: 0.870, 6PGD: 0.875)と比較して大きな変動はなかった(表2)。
 保護池におけるニッポンバラタナゴの繁殖状況は2000年の4月から5月に繁殖した個体群が成長し、 2000年10月には、体長27mm以上の個体が約6000尾まで増殖していた(写真3-a)。しかし、2001年9月30日の体長分布では、2001年生まれの個体群がほとんど採集されなかった(図1)。
 一方、ドブガイの産卵期は、ヨシノボリに寄生していたドブガイの幼生数の増減から推定すると1月から5月で、 2000年、2001年共に繁殖最盛期は3月であると推定された。また、2000年ではドブガイの稚貝の成長期は6月から11月であったが、 2001年では6個体の稚貝しか発見できなかった(図2写真3-b)。
 また、保護池と清水池における植物プランクトン組成比を比較した。保護池においては、2000年の夏季では珪藻が優占していたが、 2001年に入ると優占種が6月には珪藻から緑藻へ、さらに8月には緑藻から藍藻へと遷移していった。一方、2001年の清水池では夏場でも珪藻が維持されていた(図3)。
 以上のことから、2001年の保護池では水質の富栄養化が進み、ニッポンバラタナゴとドブガイは共にほとんど繁殖できなかったようである。保護池では2000年3月に、また清水池では2001年4月に水交換を行った。しかし、2001年2月から4月まで、隣接する河川工事が行われたため、保護池の水交換を実施できなかったことが原因で、保護池の富栄養化が進行したと考えられる。
 かつて、地元では、年に一度の泥水流し(どび流し:地元での呼び名)が行われていた。このどび流しによって池を清掃し、同時に田畑に有機物を取り入れ土壌を改良する、さらに、ドブガイや雑魚を食材として用いていたのである。現在では、高安地域の地場産業や生活様式の変遷によって、どび流しはほとんど池で行われることがなくなった。これらの調査結果から、自然環境を保全するためには、年に一度の伝統的などび流しがいかに重要であるかが示唆された。今後、我々はこのどび流しに替わる新しい浄化循環システムを考案して、自然環境を保全して行こうと考えている。
 おわりに、環境保全活動の一環として、ニッポンバラタナゴの産卵行動を撮影したビデオを利用し(写真4)、児童たちや地域の人達に、ニッポンバラタナゴの生態と保護について解説することによって、身近な自然環境と生活との関わりについて話し合うことができたことを付け加えておく。



この研究活動は、第11期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成を受けて実施された。